ITベンダーが出す「わび状」は裁判で有効?

ITプロジェクトがトラブってしまったとき、ベンダーの方から「私達が悪うございました。」とお詫びの文書を出すことがありますが、あれって本当に自分たちの非を認めた証拠になるんでしょうか?よく裁判でも、ユーザーサイドが「わび状出してるってことは、自分の非を認めてるんだろ?」と迫ったりしますが、それって裁判でもベンダーが悪い、つまり不法行為の証拠となってしまうんでしょうか?

今回、そんな裁判の例について考えてみたいと思います。これは東京高等裁判所で令和2年1月16日に出た判決なのですが、ある企業が新基幹システムの開発をITベンダーに委託したのですが、納期を経過しても全く完成する見込みが立たず、ユーザー企業側は契約を解除した上で損害賠償等20億円以上の支払いをベンダーに求め裁判になりました。

範囲外の作業を行わせたり、不合理な方針変更をしたりするなどの協力義務を果たさなかったためだとして、支払いには応じません。そこでユーザーはベンダーに責任があることの証拠としてベンダーが提出した「おわび状」を裁判官に示したわけです。

そこには確かに、「私達のプロジェクト管理が不備で、進捗が遅れました申し訳ありません。」と書いてはあるのですが。。。。

しかし、実際のところ多くのITベンダーは、トラブルになった時、”お客様”であるユーザーに対しては、とりあえず謝っておこうと、こうした文章を出してしまいがちです。仮に、本当なら相手が悪いと思っていても、そして実際にそうだったとしても、お客と喧嘩をしては、今後の商売にも差し支えます。担当者達には面白くもないかもしれませんが、特に営業担当者などが、こうしたお詫びをさっさと出してしまうなんてこともあります。そういう意味では、「わび状」は、本当のプロジェクトの姿を現しているとは言いかねるのですが。。。。さて、裁判所の判断はどうだったかと言うと。。。。

「これらの書面は、請負契約の注文者と受注者という関係の下で作成、提出されたものであって、(中略) そのような記載があることをもって、直ちにベンダーのプロジェクト管理体制の不備があり、それが基本設計工程の遅延の原因であったことを裏付けるものとはいえない。」

と、スパーンとユーザーの言い分を撥ね付けてしまいました。ちょっと、気持ちの良い思いをしたのは私だけでしょうか?

いずれにせよ、裁判所は言葉だけの「わび状」なんてものには関係なく、プロジェクトの経過や結果としてできたソフトウェアを正確に吟味して、判断を下すことろのようです。

本判決については、以下でも解説しておりますので、ご興味のあるかたは是非。

悪いのはベンダー! 「わび状」という証拠もあります!:「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(87)

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投稿者: Yoshihiro Hosokawa

日本電気ソフトウェア株式会社(現NECソリューションイノベータ)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、日本アイ・ビー・エム株式会社では、ITコンサルタントとしてシステム開発・運用の品質向上や企業のIT戦略立案の支援を行う。 現在は、政府CIO補佐官としてデジタルガバメントの推進や政府の進めるIR・カジノ関連のIT企画・構築取り組む傍ら、ITプロジェクトに関する著述、講演、研修等を行っている。 【雑誌寄稿】  日経情報ストラテジ 2013/06号  「調停委員が明かす 紛争を防ぐ契約書の書き方」  情報処理学会会誌 2014年 2月号 「IT紛争の事例とそこから見える問題点・知見」 他 【ウェブメディア】  アイティーメディア社 @IT「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説  アイティーメディア社 @IT「転職バーのハルカさん」  アイティーメディア社 @IT「コンサルは見た!」シリーズ  翔泳社  Enterprise Zine  紛争事例に学ぶ、ITユーザの心得 他  毎日新聞社 経済プレミア 部下を伸ばす上司、ダメにする上司 他

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